唎酒師への道(23)ー 酒母(酛)造り その④ 速醸系酒母ー

さて、前回は、酵母を雑菌から守るために必要な乳酸を、

自然界に存在する乳酸菌から得て造る生酛系酒母生酛山廃酛

について書かせていただきました。

今回は、

最初の段階で乳酸そのものを添加して造る速醸系酒母

がテーマです。

そして、速醸系酒母についても、以下の図のように主に二つに分かれます。

しかし、この「速醸酒母(酛)」とか、「高温糖化酒母(酛)」という用語が、日本酒のラベルに記載されることは殆どありません。

それは、市販されている日本酒の圧倒的大多数に当たる、

約90%が速醸系酒母を使って造られている

からです。圧倒的に普及している手法で造っていることをアピールする必要がないということですね。

因みに、

残りの生酛系酒母約10%のうち、生酛は僅か1%ほど、山廃酛が9%ほど

と言われています。1%しかない割には、酒屋さんでは、生酛をよく見かけるような気はしますが、これは、1%というのが、普通酒や二倍増醸酒まで含めた日本酒全体に占める割合であって、対象を特定名称酒に限った統計であれば、当然、もう少し大きくなるのでしょう。

①速醸酒母の歴史

1910年(明治43年)に国立醸造試験所がによって、従来の乳酸菌が乳酸を生成するのを待つ生酛系の手法と異なり、最初の段階で高純度の乳酸を添加して、雑菌の繁殖を抑える酒母育成法が開発されました。

②速醸酒母の名前の由来

生酛系酒母の育成期間が約1ヶ月かかるのに対し、速醸酒母は12〜14日程度と格段に短くなることから、

く、せる酒母 = 速醸酒母

と呼ばれるようになったようです。

③速醸酒母のシェア拡大

以前説明しましたように、国立醸造試験所が、山卸しという重労働をしなくても、成分的に大差がないので、その作業は省略可能だとする説を提唱したのが、1909年で、その直後は、山廃酛が勢力を拡大した期間もあったのですが、翌年の1910年に速醸酒母の育成方法が発表された後は、速醸酒母がシェア拡大の一途を辿る形となりました。

1906年に「きょうかい酵母1号」が分離されて、純粋で健全な酵母が安定的に供給される体制も整っていったことも、乳酸で雑菌を手早く殺菌した後に、早い段階で純粋な酵母を大量に投入する必要がある速醸酒母の育成方法の発展に大きく寄与したものと思われます。

こうして考えてみると、

1900年代に入ってからの技術革新は長い日本酒造りの歴史の中で非常に大きな転換点

であったと言えるでしょう。

それまでは、乳酸菌も酵母も酒蔵に棲み着いている自然のものを取り込んでお酒を造っていたことから、時間もかかるし、不安定で腐造のリスクも高かったですし、酒質の再現性を維持することも困難でしたが、新たな技術の開発によって、失敗することが少なくなり、かつ安定した酒質のお酒を造れるようになったのです。

④新たな技術の開発

そして、1940年に広島で、更に速醸酒母を発展させた形の高温糖化酒母なるものが開発されました。

これは、蒸米、麹、水を55℃近辺の高温にし、その温度を保つことで、米を溶かし、甘酒状にして、糖化しやすくするとともに、雑菌の殺菌も行い、その後、40℃程度まで急冷して、まず乳酸を加え、更に25℃程度まで温度を下げて、酵母を投入して培養するという手法です。

前回の生酛・山廃酛の回でも、

酒母造りにおいては、まず糖化を優先させる

と書きましたが、生酛が米の糖化を起こりやすくるために山卸しという作業を行うのに対して、この手法では、原料投入後に温度を上げることによって、米を一気に溶かすわけですね。そして、高温にすることで、雑菌や野生酵母など不要な微生物を一掃できるわけですから、まさに一石二鳥です。

そして、更に、念を入れて乳酸を添加して、綺麗な環境の中で、きょうかい酵母や自蔵培養酵母を純粋培養して増やしていくわけですね。

ですから、高温糖化酵母の場合は、非常にピュアな酵母が培養されることになり、味わいも淡麗でスッキリとしたものになる傾向があると言われています。

更に、最も驚くべきは、

高温糖化酒母の育成期間は7日間程度と通常の速醸酒母の更に半分の期間

になるのです。これは大きなメリットですよね。

ただ、良いことばかりではなくて、低温のストレスのある中で育った酵母に比べると、酵母としての活性が弱い傾向があり、その後の管理に注意が必要との意見もあるようです。

ただ、高温糖化酒母は、かなり市民権を得てきておりまして、実際、全国新酒鑑評会における出品酒におきましても、全体の約16%を占めるに至っております。因みに、速醸酒母が70%でダントツです。

次に多い「中温速醸」と言いますのも、速醸系酒母のバリエーションの一つで、酒母を造る際に速醸酒母よりも、高めの温度20℃近辺を維持して、米を早く溶かし、育成期間を大幅に短縮する手法です。

まあ、それにしても、使用米、アル添の有無、酵母、酒母と色々みてきましたが、新酒鑑評会って本当に傾向が偏りますよね。

「これが良い酒だ!」

という大前提が決まっていて、その価値観に合うお酒を造る技術を競い合う、もしくは、その技術を伝承するのが目的ということなんでしょうかね?

酒類総合研究所 平成26酒造年度全国新酒鑑評会出品酒の分析について

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