唎酒師への道(22)ー 酒母(酛)造り その③ 生酛と山廃ー

前回は、酒母には大きく分けて、生酛系酒母と速醸系酒母の二種類があって、圧倒的大多数の日本酒が速醸系酒母を用いて造られていることを書きました。

でも、3回目の今回は、まず、極少数しか用いられていない生酛系酒母のことを説明したいと思います。何故なら、複雑な技術を要する手法を先に説明した方が、新しい手法である速醸系が如何に合理的であるかがわかりやすいですし、生酛系酒母を用いて造ったお酒は、その希少性から、

ラベルに生酛系酒母であることの記載がされることが多い

という現実があり、ラベル記載事項から日本酒を選択する際の一つの重要な情報になるからです。

さて、その生酛系酒母ですが、下の図の通り、「生酛」と呼ばれるものと、「山廃酛」と呼ばれるものの二つが在ります。

「生酛系酒母」の「生酛」って何だ?って感じですよね。ややこしくなってきましたね。

ちょっと、話を変えましょう。そもそも、酒母ってどうやって造るのか?という根本的な説明が、まだでしたよね。

これはザックリとしたイメージですが、醪の仕込みに比べると小さめのタンクに、水、麹、蒸米を投入し、乳酸によって雑菌の繁殖を抑えながら酵母の培養をしていきます。

そして、この「乳酸」を自然界に存在する乳酸菌から得るのが「生酛系酒母」、醸造用乳酸を人為的に添加するのが「速醸系酒母」でしたよね。

でも、この図をよく見ると、「唎酒師への道(2)」で、日本酒の独自の発行形態である「デンプンの糖化」と「アルコール発酵」を同時に進行させる、

「並行複発酵」

の説明をした時に使った図とほぼ同じです。その時の図は簡略化していたため「乳酸」はありませんでしたが、実際の醪の発酵には酒母に含まれている乳酸が作用して雑菌の増殖を防ぐ役割をしていますので、

「酒母造りと醪の発酵に投入される原料は同じ」

ということになります。

ですが、あくまでも酒母造りの目的は、

アルコールを得ることではなく、酵母を培養すること

ですので、それに特化した工夫・管理・手順があるのです。

酒母造りにおいて、特徴的なのは、

二つの発酵を均等かつ並行的に行うのではなく、まずデンプンの糖化を優先させる

という点です。

イメージを図で書きますと以下の通りです。

まず、第一段階として、糖化を促進し、雑菌抑制のための乳酸を乳酸菌から得る、または添加して、更に糖化を進め、その次に、酵母を投入し、酵母がブドウ糖を栄養源にしながら大量に増殖し、その過程でアルコール発酵も起こるという形です。

そして、この「デンプンの糖化」というプロセスは、麹が生成する酵素によって行われるのですが、この糖化という発酵が円滑に進むためには、

蒸米が溶けている方が条件としては有利

なのです。

もちろん、麹が生成する酵素で、蒸米を溶かす役割を持つものもあるのですが、昔は、今のように精米技術も発達していなかったので、米が硬く溶けにくかったことから、人間が手を加えて蒸米を擦り潰す作業を行っておりまして、この作業のことを、

山卸し(やまおろし)=酛摺り(もとすり)

と呼んでいました。

ところが、この山卸しという作業が、非常に重労働で、蔵人にも負担の大きい作業であったことから、何とか解消する方法はないか?という研究がずっとなされておりましたところ、1909年に国立醸造試験所が、

「酒母の成分分析の結果、山卸しの有無による違いはないので、山卸しの作業は不要

との見解を発表したのです。

その後、更なる精米技術の発達や、醸造学の発達によって、山卸しという作業に頼らずとも、麹の生成する酵素の力を強化することによって安定的に酒母造りができるようになったこともあって、生酛系酒母を用いる蔵でも、山卸し作業を廃止するところが圧倒的に増えて行きました。

こうして、同じ乳酸を自然界の乳酸菌から得る手法である「生酛系酒母」の中にも、山卸しという作業を行うかどうか?で二種類に別れることになり、それぞれ、

山卸しを行う手法 ➡️ 生酛

山卸しを廃止した手法 ➡️ 山廃酛

と呼ばれるようになりました。

卸しを止したから、略して「山廃」

なんてネーミング、冗談みたいですが、本当なんです。

そもそも「廃」という漢字に、あまり良いイメージは持てないですし、ここまで読んでいただいて、お感じになったたかも知れませんが、

そもそも生酛が正統で伝統的な手法であり、山廃酛は負担の重い作業を省略している紛い物的手法

というような印象を持たれる方もいらっしゃると思います。

しかし、それは、

完全な誤解

です。

酒類総合研究所HPより

山卸し作業というのは、写真のように、「半切り」という桶に入れた蒸米を櫂という道具を使って摺り潰すことなのですが、ここまでの作業はしなくて、いきなりタンクに仕込んだとしても、タンク内で少し櫂を入れて蒸米を潰して混ぜ合わせるような作業を行なった場合、それは「山廃」ではなくて、「生酛」なのか?というような議論もあり得るわけでして、なかなか線引きが難しい面もあります。

生酛も山廃も育成期間としては、ほぼ同じ程度かかりますし、本来的には、あまり味わいにも差は出て来ないはずです。

これも、日本酒の世界にはよく出てくる話なのですが、結局、法的に厳密な定義があるわけではないので、ある蔵が「生酛」と名付けたお酒も、別の蔵では「山廃」的なものかも知れませんし、その逆もあり得るといった世界です。

そういえば、先日、ご紹介した日本酒の「kurukuru トリプルアクセル」は、

山卸しの作業を酒母タンクの中でヘラのついたドリルをくるくる回して行う

ことから、名付けられたとのことで、この手法は、

「秋田流生酛」

と名付けられているそうです。半切りを使ってないですし、タンクの中で混ぜ合わせているだけなので、

「秋田流山廃」

でもいいような気がしますけどね。まあ、これも生酛と山廃の微妙な関係を表す良い例だと思います。

う〜ん、硝酸還元菌のこととか、酒母の温度管理のこととか、全く書いてないのに、こんなに長くなってしまいました。

唎酒師試験では、そこまでの知識は要求されませんし、理解のし易さを考えて、次回は、速醸系酒母の説明をして、より突っ込んだ話は最後にオマケとして取り上げていきたいと思います。

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