唎酒師への道(21)ー 酒母(酛)造り その② 二種類の酒母ー

さて、前回は酵母について説明しましたので、今回から酒母(酛)造りについて書いていきます。

繰り返しになりますが、この工程は、

「アルコール発酵に必要な清酒酵母を大量に培養するプロセス」

です。

「酒母=酒の母」、そして、「酛」を漢字の部首で考えても、お酒を表す「酉」に「元」ですから、その呼び名からも、この工程の重要性がわかっていただけることと思います。

あの有名なフレーズ、

「一麹、二、三造り」(イチギク、ニモト、サンツクリ)

とは、この酵母を培養する工程のことを指します。そして、これから、この工程を説明するにあたっては、酒母という言葉が、色々な場面で出てきますので、混乱しないようにしてください。

因みに、酒母のことは英語で、

Fermentation Starter

といいまして、「発酵を始めさせるもの」ということで、次の工程である「醪の発酵」を順調に進めるための「起爆装置」(ちょい違うか・・・)みたいなものとも言えるかもしれません。

その酒母造りですが、硝酸還元菌、乳酸菌、雑菌、野生酵母など、様々な微生物との関わり・闘い、そして酵素による糖化と酵母の増殖の調整など、実に細かい作業が存在する複雑な工程で、書こうと思えば書くことはいくらでもあるんですよね。

ということで、どうやって説明すればわかりやすいのか?と悩ましいのですが、まずは、ありきたりですが、酒母の種類について説明します。

まず、酒母は、以下のように大きく二つの系統に分けることができます。

酒母造りの工程では、先ほども少し書きましたが、

培養したい優良清酒酵母の他に存在する様々な雑菌・微生物を排除する必要がある

のですが、実は、

これらの雑菌はに弱い

という特性を持っていまして、この培養タンク内の溶液を酸性にしてやれば、雑菌は繁殖できなくなるわけです。

そして、このを得るために、

酒母造りにおいては乳酸を使う

のですが、その乳酸を、どうやって得るかの手法によって、酒母の種類が分かれており、

・蔵の中に存在する自然の乳酸菌を取り込んで繁殖させることによって得るのが生酛系酒母

醸造用乳酸を添加することによって得るのが速醸系酒母

です。

速醸系酒母造りというのは、1910年に国立醸造試験所によって開発された手法ですから、それ以前は全て生酛系の酒造りが行われていたということであり、その歴史は僅か100年ちょっとなのですが、今や、

日本酒の90%程度が速醸系酒母によって造られている

という驚愕の事実があるのです。

そして、そこまで速醸系酒母が広まったのには、当然、理由があります。まずは、両者の特徴を簡単に表にまとめましたので、ご覧ください。

育成期間に関しては、生酛系酒母は、粘り強く自然界の乳酸菌が繁殖するのを待たなければいけない期間があり、それに対して速醸系酒母は、すぐに乳酸そのものを添加すればいいので、両者の期間には大きな差があります。後で説明しますが、速醸系酒母の中の新しい技術を用いた手法だと1週間で酒母ができてしまうものもあるのです。

これだけ育成のための期間が違えば、当然、早くできる分だけ、速醸系酒母の方が様々なコストが削減できますし、経営上も有利で、その上、労力も少なくて済むというメリットもあります。

オマケに、生酛系酒母の場合は、乳酸菌を繁殖させる過程で、乳酸菌自体にも色々な種類のものが関与しますし、様々な微生物も存在することから、それを上手にコントロールして健全な酵母を培養し、安定した一定の酒質を保つためには、非常に高い技術が求められるのですが、速醸系酒母の場合は、純粋な乳酸を投与するだけなので、そうした手間暇も入らず、リスクの少ない環境で、安定した酒質を確保しやすいと言えるでしょう。

味わいに関しても、同様に生酛系酒母は、多くの微生物が関与し、乳酸菌が乳酸を作る際に同時に生成する様々な成分もあることから、濃醇で複雑な味わいになりやすいのに対して、速醸系酒母の方は、余分な微生物の関与がないことから、スッキリとした淡麗な酒質になりやすいと言われています。

どうですか?

自分が酒蔵の蔵元だとしたら、経営者として、どちらを選びますか?

速醸系酒母を選択する蔵元が圧倒的に多いのはわかりますよね・・・。

では、敢えて、生酛系酒母を選択する理由とはなんなのか?

蔵によって理由は色々違うかもしれませんが、自分はやはり、一番の理由は、

こだわり

なんだろうと思います。

・昔から行われてきた手法を、しっかりと引き継いでいきたいという「伝統へのこだわり」

・生酛系酒母から造るお酒ならではの「酒質へのこだわり」

・乳酸菌や微生物と対峙し、糖化と酵母の培養をコントロールしていくという「技術へのこだわり」

などなど、様々な「こだわり」があるからこそ、生酛造りにチャレンジしていく蔵が存在するのだと思いますし、そういう「こだわり」を持った蔵も少しづつ増えてきています。

次回は、生酛系酒母、速醸系酒母、それぞれについても、幾つかに種類が別れていますので、その説明をしたいと思います。

大七酒造HPより

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