全国新酒鑑評会とIWC

さて、今回は、世の中に数多く存在する日本酒のコンペティションについて書いてみたいと思います。

一昔前までは、日本酒のコンペティションといえば、何と言っても、

「全国新酒鑑評会」

で、ここで金賞を受賞することが、蔵にとって最大の栄誉であり、杜氏さん以下、蔵人達にとっても大きなモチベーションとなっていたものでした。

しかし、以前から、以下のような様々な問題点も指摘されていました。

①金賞受賞酒の傾向が偏りがちで、造り手もその傾向に合わせて酒造りを行うことが多い

・平成25年酒造年度のデータによると出品酒の83%が山田錦100%(うち80%が兵庫県産)

・平成25年酒造年度のデータによると出品酒の1/4以上の28.5%が協会1801酵母を使用

・平成25年酒造年度のデータによると金賞受賞酒233のうち酸度が1.5以上のものは、僅か8つ

②香りが華やかなものが優位な状況が長く続いたので、出品酒はアル添した大吟醸酒が多い

・平成25年酒造年度のデータによると出品酒のうち純米酒は僅か12.5%

③特別に鑑評会用のお酒を造る酒蔵も多いため、金賞受賞酒で一般市場に流通しないものも多い

・最近は市場に売り出すものと同じものを出品する蔵も増加傾向ではあります

④審査が一部の限られた専門家によって密室で行われている?

・酒蔵関係者、国税局鑑定官などから成る、審査委員45名、決審審査委員24名ほどによる投票形式

⑤審査基準・項目がシンプル過ぎる?

・予審、決審の審査カードは以下のような形式で減点方式で採点。コメント欄も小さい

酒類総合研究所HPより

⑥金賞の価値の低下?

・主宰が国税庁から酒類総合研究所に移った後は、出品酒の3割近くが金賞を受賞

 

そんな中、昨今の日本酒人気の高まりや、日本酒に対する国際的な関心・評価の上昇、そして業界関係者の努力によって様々なコンペティションが行われるようになりました。

その代表格が、International Wine Challenge (IWC)のSAKE部です。

もともと、毎年ロンドンで開かれているワインのコンペティションでしたが、日本酒造青年協議会の働きかけなどで、2007からSAKE部門が新設され、今では、400を超える蔵から1200以上の銘柄が出品される規模にまでなり、その影響力・存在感も年々高まってきている感があります。

その理由としては、何と言っても評価手法の違いが挙げられます。

IWCの審査の特徴をざっと書いてみますと、

❶普通酒部門、純米酒部門、スパークリング部門、古酒部門など9つの部門を創設し審査

❷世界中から集まった審査員がグループでディスカッションしながら評価

❸減点方式でなく、ポジティブな意見を出し合い、何故そう評価するかの評価の理由も述べ合う

❹グループ内で意見が割れた場合はリーダー主導で再テイスティングを実施し意見集約

審査員同士についてもお互いに評価し、結果が悪ければ翌年の審査員から外される

というような感じです。

全然違いますよね!

私、実は、日本企業から外資系企業に転職した経験を持っているのですが、やはり、日本企業は、物事を決める際も、何か暗黙のルールみたいなものがあって、誰もそれに異論を唱えない雰囲気があったり、密室で決まったりと不透明なことが多かったですが、外資系は、とにかく「議論の場」を設けて、オープンにお互いの意見をぶつけ合うということが多かったです。この日本酒の評価方法の違いも、まさに、カルチャーの違いというところでしょうか。私も転職時には苦労しましたが、きっと、語学の問題だけでなく、日本の新酒鑑評会の審査員の方々の多くも、もしIWCの審査員として、いきなり派遣されたら、その雰囲気に圧倒されてしまう可能性大ですね。

IWCの評価方法だと、

「酸味の強い日本酒だって美味しいものがある」

とか、

「ちょっと独特の香りだけど面白い」

といった評価のされ方もあり得ますから、造り手側も、個性ある日本酒を造るというモチベーションが湧いてきて、その結果、日本酒のファンの裾野も広がっていくというようなことも期待できると思います。

もちろん、新酒鑑評会には新酒鑑評会の良さもあると思いますし、金賞を獲ることの価値は十分あると思いますが、もっと「多様性」を容認する評価手法、評価基準を模索するべきではないでしょうか?

日本酒のコンペティションには、大きいものでは、他に、6年前から始まって、今や最大規模の出品銘柄数を誇る、その名もズバリ、

SAKE COMPETITION

というものもあります。こちらも、日本酒を6部門に分けて評価していますね。

あと、こちらはセールスプロモーション的なところが強いですが、「ワイングラスで美味しい日本酒アワード」とか、「全国燗酒コンテスト」なんてものもあります。

それとコンペティションではないですが、昨年からワインの評価で有名な、ロバート・パーカーが日本酒の評価を始めたことも話題になりましたね。ワインの世界では、絶大な影響力を持つ彼が、日本酒の世界で、どの程度の影響力を持つのか? 今後の動向に注目です!

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