唎酒師への道(14)ー 洗米・浸漬ー
さて、前回は原料処理の工程の重要性と、「枯らし」について書きました。今回は、「洗米・浸漬」と一気に二つの工程を説明します。
「洗米」は、精米した際にお米の表面にこびりついた糠や、その他の異物を水を使って洗い落とす作業で、洗米機という機械を使う場合と、人の手で少量づつ洗う場合があります。
温かい水で洗うと、早いスピードでお米に水分が浸透し割れやすくなるため、真冬における作業でも冷たい水で行いますので、それだけでも人の手で行うのは辛い作業なんですよね。
そして、洗米機を使うか、人の手で洗うか?の判断は、蔵の事情によって、また精米歩合、米の使用目的や考え方など様々な基準で決まっていまして、
<洗米機を使用するケース>
①量が多すぎて、とても人の手では処理できない場合
②普通酒などのカテゴリーに属する精米歩合の高い米を洗う場合
③人の手に頼るよりも、機械を使った方が正確な作業が可能との判断
<人の手で洗米するケース>
❶吟醸酒などに使う精米歩合の低い米を洗う場合
❷麹米用のお米を洗う場合
❸原料処理のプロセスの中でも重要かつ繊細な工程なので機械に任せず人の経験を優先すべきとの判断
といった例を挙げることができます。
①については、正に、物理的な問題であり、それほど生産量が多くなくても、例えば蔵人の人数が少ない場合に機械を選択するところもあります。そして、大手の酒蔵でも、こだわりのあるところは、微妙な調整ができ、お米にダメージを与えにくい最新鋭の機械を導入しているところもあります。
❷は日本酒造りの工程において、重要な工程である「麹造り」に使うお米に関しては、機械を使わず、人の手で手間暇かけて洗おうということで、❸にあるように、やはり機械に頼らないで人間が長年の経験で得た感覚を活かしてこそ、「正確な作業」ができるという考え方です。一方で、③は、それとは対局の考え方で、洗米という厳しい作業を正確に行い続けるのは困難であるので、データを分析した上で、機械に任せた方が「正確な作業」ができるという考え方ですね。
②と❶については、実は、
精米歩合が高い米 ➡︎ 水を吸いにくい(ゆっくり吸う) ➡︎ 吸水する水分の調整しやすい
精米歩合が低い米 ➡︎ 水を吸いやすい(速く吸う) ➡︎ 吸水する水分の調整が難しい
という事実がありまして、吸水する水分量を調整しやすい米は洗米機で行い、微妙な調整が必要な米は人の手で行うということにしているわけです。
さて、ここで勘の良い読者の方々は、「洗米」は米の汚れを落とすための作業のはずなのに、何故、「正確な作業」とか「吸水する水分の調整」という話が出てくるのか?と疑問に感じられたのではないでしょうか?
そうです!「洗米」には、米の汚れを落とすという目的に他に、もう一つ、水で洗うという工程である以上、その工程の中で、
「お米が水を吸収する」
という事象が避けられないのです。そして、前回も説明しましたが、この原料処理のプロセスのゴールである「良い蒸米」を得るためには、
「蒸す前の米の水分量を適正にする」
ことが最も重要で、この観点からは、
「洗米」と水に浸して水分をお米に吸わせる工程である「浸漬」とは一体として考えるべきもの
なのです。
ですから、酒蔵では、「洗米・浸漬」を行う前には、必ず、目標とする適正な水分量=吸水率というものを決めて、その目標値から極力ブレないように時間を厳密に測って作業(これを限定吸水と言います)を行うのです。
因みに、吸水率は以下の式で算出します。
吸水率=(浸漬後の白米の重量ー白米の重量)➗白米の重量✖️100
要するに、「お米に水分を吸わせて増えた重量の、元々の白米の重量に対する割合」ですね。
蔵の杜氏さんは、「その年のお米の作柄状況」、「お米の品種」、「枯らし後の水分量」、「精米歩合」などを勘案し、更に「その日の室温」、「湿度」、「浸ける水の温度」など様々な条件を考慮して、
目標とする吸水率達成のための浸漬する時間
を決めていきます。
例えば、精米歩合の低いお米の場合は、吸水スピードが早く、調整が難しいので、そのスピードを遅くするために低温の水に浸け、しかも、秒単位で正確に時間を測って「洗米・浸漬」の一連の作業を行うといった具合です。
吸水率の目標は、そのお米の使用目的(麹用なのか?掛米なのか?)などによって異なりますが、概ね25〜35%であることが多いようです。
そして、この数値が1%ズレただけでも大変な誤差で、蒸米の出来に大きな違いが出てしまうという極めて重要かつ繊細な作業工程なのです。
実際、杜氏さんの中には「洗米」こそが最も重要な工程だ!と言い切る方までいるんですよね。
「精米」で雑味の要因になる成分を削り、「枯らし」で温度と水分量を調節しお米を割れにくくし、「洗米」「浸漬」で、適正な吸水率を達成するという一連の作業が終わると、次は、いよいよ「蒸し」の工程です。次回をお楽しみに!
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