唎酒師への道(13)ー 枯らしー

さて、久しぶりに「唎酒師への道シリーズ」です。まだ、数多くの工程の中で、一番最初に行う「精米」についてだけ説明し終えた段階ですが、今回は、精米後の「枯らし」という工程について書きます。

まず、その前に、日本酒の製造工程においては、前回の「精米」や今回の「枯らし」などを含む、いわゆる「原料処理」に当たる工程が5つ存在しますので、それをご紹介します。

この「原料処理」の一連のプロセスは、その名の通り日本酒の原料である「お米」に対する処置であり、一見地味な工程のように思われがちです。

実際、日本酒造りにおける工程の重要度の順番を表す言葉として、

「一麹、二酛、三造り」(イチギク、ニモト、サンツクリ)

というものがありまして、この三つの工程に関しては、いずれ当ブログで詳しく説明しますが簡単に書きますと、

 ➡︎ 蒸米に麹菌を繁殖させる工程

 ➡︎ 麹と蒸米、水とで酵母を大量に培養する工程。酒母とも言う

造り➡︎ 醪(蒸米、酛、麹、水をタンクに仕込んだもの)の状態での並行複発酵を促す工程

ということで、要するに、日本酒の製造にあたって、

「最も重要なのは麹造り、次は酵母の培養、そして三番目が発酵の管理である」

と言っているわけですね。

しかし、よく見てください!

この3つの工程の中には、いずれも「蒸米」が登場するんです!

ですから、「良い蒸米が出来ること」が、これらの肝心要の重要な工程がうまくいくための必須条件であり、ということは、一連の「原料処理」というプロセスも、地味ながら極めて重要な意味を持っているということがわかりますよね。

さて、前置きが長くなりましたが、ここから「枯らし」についての説明に入ります。

「唎酒師への道(7)」では書きませんでしたが、実は、精米というのは、非常に時間がかかる作業でして、例えば、精米歩合60%だと約30時間とか、50%だと約70時間などという長い時間をかけて、お米が割れないように少しづつ少しづつ磨いていくのです。そして、その磨かれていく過程で、

「お米が熱を持ち、温度が上がり、お米の水分量が減っていく」

ということが避けられません。そして「枯らし」というのは、

「精米で上がってしまった温度と、下がってしまった水分量を常温で保存することによって調整する」

工程です。そして、その保存期間ですが精米歩合などによっても異なりますが、概ね、2〜3週間程度です。

では、何故「枯らし」という工程が必要なのか?ということなんですが、それは

お米の割れを防ぐ」と「適切な水分量に調整する」

ということに尽きます。

まず、「お米の割れを防ぐ」という点に関しては、精米後の状態のままだと、

①通常の玄米は水分量が15%ほどあるが、例えば精米歩合50%まで磨くと、これが9%程度にまで落ち込み、水分量が大きく低下したお米は、そもそも脆くなっていて割れやすい

②「枯らし」の次の工程は洗米」で、お米の温度が高いままで水に入れてしまうと急激な温度変化のため、お米が割れやすい

③水分量の低下したお米は水を吸いやすくなっているため、そのまま「洗米」の作業に入ってしまうと急激に水を吸ってしまい、その結果お米が割れやすい

といった事が起こってしまうので、これを避けるために、冷暗所で常温で、ゆっくりと温度を下げ、「適切な水分量」に戻してやる必要があるのです。

そして、この「適切な水分量」に戻す意味ですが、上記の割れを防ぐ以外にも、重要な目的があります。実は「蒸し」と言う「原料処理」の中の最終工程においては、お米の水分量が非常に重要になり、その水分量というのは、一連の原料処理のプロセスの中では、「洗米」や「浸漬」といった工程において主に調整されますが、そもそも、その前の「枯らし」という工程において「適切な水分量」に戻しておかないと、「洗米」や「浸漬」において、吸水のスピードの調整がうまく行かないわけですね。ですから、「枯らし」の工程で「適切な水分量」に戻す事が必要なのです。

いかがでしたでしょう?「枯らし」は保存するだけのシンプルなプロセスではありますが、非常に重要なものである事がおわかりいただけたと思います。

最後に、これは混乱を招きそうなので、ご参考という事なのですが、日本酒の製造工程において、「枯らし」と呼ばれるものが、あと二つ存在します。

一つ目は、

「麹が完成した後に、醪の仕込みまで約1日ほど放置しておくこと」

そして二つ目は、

「酛造り(酵母の大量培養プロセス)で、酵母の培養を終えた後、仕込みまで寝かせる事」

です。それぞれ、麹造りや酛造りのところで、また説明しますが、要するに、「保存する」「放置する」「寝かせる」といった行為を「枯らす」という言葉で表現するという事なのでしょう。

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