唎酒師への道(7)ー 日本酒の製造工程 精米 ー
さあ、いよいよ、今回から本丸である日本酒の製造工程について説明していきます。
日本酒の醸造には、非常に多くの複雑な工程が存在し、およそトータルで3〜4ヶ月の期間を要してようやく完成します。ここでは、その工程を順を追って、なるべく分かり易く説明し、かつ、その都度、
・工程の違いによる様々な日本酒の名称の違い(含むラベルに記載される専門用語)
・工程の違いによる味わいや香りへの影響
といったことを解説していきます!
その第一回目は「精米」です。もう、既に、最初から当ブログを読んでくださっている方は、「唎酒師への道(3) 日本酒の原料 お米編」でも簡単に説明していますが、
「精米とは原料であるお米を削ること」
です。そして、日本酒のラベルには必ず「精米歩合」というものが記載されていますが、それは、
「玄米を削った後、残っている部分の割合」
のことです。実際の例で説明しますと、
精米歩合60% ➡︎ 玄米を40%削ったもの
精米歩合35% ➡︎ 玄米を65%削ったもの
となります。削れば削るほど、磨けば磨くほど精米歩合の数値は小さくなるわけですね。
そして、精米する理由ですが、これも「お米編」で書きましたが、
多過ぎると雑味の要因となるおの外側の部分に多く含まれるタンパク質などの成分を取り除くため
で、精米機という機械を使って、およそ2日間かけてお米を磨きます。因みに、この精米という工程ですが、規模の大きな酒蔵は自前の精米機を保有しているところもありますが、専門の業者に委託しているところの方が圧倒的に多いです。
そして、技術の進歩は目覚ましく、今は、コンピューターの制御によって、精米歩合を非常に小さくする(削る割合は大きくなる)ことも可能になり、精米歩合が一桁の8%、つまり玄米の92%を削ってしまったものを原料として造っているお酒も登場していますし、粒の小さい一般米でも、お米を割ることなく多くの部分を削ることができるようになっています。
さて、精米についての一般的な説明は以上で、ここからが本題?です!
精米歩合がお酒の味わい、香りなどに与える影響について
シンプルに表にすると以下のようになります。
まず、味わいに関してですが、高精米歩合の場合、お米の成分としての、タンパク質や脂質、ビタミンなどが多く残っていますので、これらが麹からでる酵素の作用によって、様々なアミノ酸や不飽和脂肪酸などへと変換されることになり、これらの物質による味わいはポジティブに言えば、
「旨味」「複雑味」「ふくよかさ」「どっしり感」「フルボディ」
と表現されるものなのですが、ネガティブに表現すれば、
「雑味が多い」「くどい」
といった具合になります。
逆に、低精米歩合の場合は、ポジティブに言えば、
「綺麗」「スッキリ」「ドライ」「上品」
ネガティブに言えば、
「シンプル過ぎる」「深みがない」「薄っぺらい」
というところでしょうか?
結局のところ、同じ味わいを「雑味」と感じるか、「旨味」と感じるのか?「綺麗で上品」と感じるのか、「深みがない」と感じるのかは、飲み手個人の感覚、好みによるものですので、
精米歩合の高い低いで、お酒の優劣が決まるわけではない
ということは覚えておいてください。
次に香りに関してですが、まず科学的に、
「脂質から生成される不飽和脂肪酸が多い環境下では、日本酒における重要な香気成分の一つであるバナナのようなフルーティーな香りの元である酢酸イソアミルという成分の生成が抑制される」
という事実がわかっています。
ですから、
「低精米歩合で脂質が少ないお米を原料としたお酒の方が、高精米歩合のお酒よりフルーティーな香りが強くなる傾向がある」
と言えます。
それと、こちらの方がむしろ重要だと思いますが、
低精米歩合のお米を原料として使う場合は吟醸造りという醸造方法を採る場合が多い
のが現実で、この吟醸造りによって
「吟醸香と呼ばれるフルーティーな香りが引き出されるので、結果として、低精米歩合のお酒の方が香りを強く感じる」
という傾向はあるのでしょう。(吟醸造りについては別途書きます)
しかし、これらも香りに非常に大きな影響を与える酵母の種類などによって変わってきますので、一概には言えません。
以上のことから、「精米歩合による味わいと香りの傾向」を図にしますと以下のようになります!
最後に価格ですが、低精米歩合の方が、酒造りに使わない部分が多いということは原料の使用割合が非効率的ですので、当然、原料コストが上がり、その部分が価格へ添加されるので
”一般的に”低精米歩合のお酒の方が高精米歩合のお酒よりも価格は高くなる
ということになります。
さて、そして実は精米歩合は日本酒の呼称にもつながっています。酒類業組合法は、原料や製造方法などによって日本酒の名称を定めています(特定名称酒)が、
精米歩合の値がその呼称の区分けにおいて重要な要素である
という事実があるのです。次回、その辺りを書きます!
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