日本酒の辛口・甘口とは?

「日本酒の都市伝説その②」でも取り上げましたが、日本酒の辛口・甘口というものは、単純なものではなく、様々な要素が複雑に絡み合って、しかも、最終的には飲み手個人の感性に、その感じ方が委ねられてしまうという実に厄介な代物です。

しかし、実際のところ、居酒屋や酒屋で日本酒をオーダーする際に、殆どの人が、まずは「甘口か?辛口か?」を基準に選んでいるというのが現実です。そして、「ビギナーのための日本酒選びの極意」で書いたように店員さんに自分の好みを伝えてオススメしてもらえれば、それが一番ですが、それが叶わない場合でも、何か、

「簡単に甘辛を判断する基準がないか?」

ということで、現状、最も利用されている数値が、

日本酒度

と呼ばれるものです。

この日本酒度ですが、厳密に書くとややこしいので、ちょっと単純化して説明しますと、

水をゼロ(0)とした場合の、それに対する日本酒の比重の値

です。「日本酒の原料 お水編」で書きましたが、日本酒の約80%はで、残りの20%がアルコールや糖分などのエキス分となります。

そして、日本酒は、「デンプン質の糖化」と「糖分のアルコール発酵」が同時並行的に進むことによって造られ、このバランスをどうコントロールするか?が非常に重要になると説明しましたが、水に対する比重という観点から考えると、

デンプン質の糖化作用によって生成されるもの ➡︎ オリゴ糖、ブドウ糖などのエキス分(比重重い)

アルコール発酵によって生成されるもの ➡︎ アルコール(比重軽い)

となります。ですから、完成した日本酒の比重を測って、シンプルに、

比重が重ければ糖分を中心としたエキス分が多いので甘く、比重が軽ければ辛いはず?

となり、そして、日本酒度というのは、

水に対して比重が重ければマイナス、軽ければプラスの数値になる

ので、

そのプラス・マイナスと数値の大小で、日本酒の甘辛度を判断できる!

という考え方があるわけです。

ところが、実際には、この数値だけで日本酒の甘辛度は一概に判断できないのです。

では、その理由を挙げていきますね!

①エキス分を構成する成分の違い

”エキス分”は主に糖分ですが、デンプンが最終的にブドウ糖へと糖化されるプロセスの中で生じる、糊状のデキストリンや、オリゴ糖といった「中間生成物」も存在します。そして、これら「中間生成物」は比重は重いのですが、ブドウ糖に比べると糖度が低いのです。ですから、比重が重く日本酒度がマイナスでも、ブドウ糖が多く含まれている日本酒は甘みを強く感じますが、「中間生成物」が多いものは意外に甘くないということが起こるわけです。

②酸の影響

甘みを感じる感覚に非常に影響が大きいのが「酸」です。例えば、同じ糖度のリンゴを食べても、酸味の強い種類のものよりも、弱いものの方に、より甘みを感じます。以前書きましたが、日本酒はワインに比べて酸味が少ないので、もともと甘みを強く感じやすいのですが、ワインと比べて少なめとはいえ、日本酒の中での比較で言えば、当然酸度の高いものと低いものが存在します。

ですから、日本酒のラベルの数値から甘辛を判断しようとする場合は、

日本酒度に加えて酸度の数値もチェックする

ことが大事になってきます。因みに酸度は、1.2〜1.4くらいが平均値ですので、

1に近い、または割り込んでいると酸度は低め、2に近い、または超えていれば酸度は高め

と覚えておいて、日本酒度の数値のプラス・マイナスの値に加えて、この酸度の尺度を判断基準に加えてやるわけです。上の写真のラベルの例ですと、日本酒度はー2なので甘めですが、酸度は1.7とやや高めですので、バランスが取れているお酒かな?というような判断になるわけですね。

そして、実は、消費者の日本酒の選択を容易にするため、より正確に日本酒の甘口・辛口を判断する新しい基準を創ろうとする動きはありまして、酒類総合研究所と日本酒造組合中央会が2005年に、ブドウ糖含量と酸度を考慮した「新甘辛度」なるものを提唱したのですが、残念ながら世の中には普及せず、日本酒ラベルへの記載も殆どありません。シンプルに日本酒度だけで判断するよりは精度は高まるのでしょうが、結局、それでも十分ではないことも影響しているのかも知れません。

それと、一口に「酸」と言っても、「コハク酸」、「乳酸」、「クエン酸」など様々な酸が存在し、味わいに与える影響も各々で全く違いますから、当然甘辛の感覚への影響も違います。深いですね〜。

③飲用温度帯

冷たい温度で飲めば甘みは抑えれますし、お燗をすれば甘みは強調されます。ただ、実際のところ、我々が飲む日本酒は冷蔵庫で冷やされたものが多いですから、その温度で甘みを強く感じるお酒は、お燗にすると甘みが強調され過ぎてバランスが崩れてしまう場合もあるのです。余談ですが、造り手サイドの方でも、こういう冷やした状態で飲まれることが多いことを考慮して、「冷えた状態」で美味しいお酒を造ることを意識しているところも増えてきているらしいです。逆に言えば、冷えた状態では、素っ気なく感じるようなお酒でもお燗にすると本領を発揮するものもあります。深いですね〜。

④旨味成分(アミノ酸度)

日本酒度ほど、ラベルに表示してあるケースは少ないですが、アミノ酸度という数値がありまして、この数値が高いと旨味成分が多く濃厚で複雑な味わいになり、逆に低いとスッキリとした味わいになります。スッキリとしていれば、シンプルに辛口だとイメージしてしまいますが、様々な旨味を持つどっしりとした酒質を辛口と感じる人もいるでしょうから微妙です。深いですね〜。

⑤アルコール度数

アルコール発酵は糖分を酵母が分解・消費することで進んでいくわけですから、アルコール発酵が進みアルコール度が高い日本酒は、比重の重い糖分が減り比重の軽いアルコールが増えているわけで、日本酒度も高くなり辛口であるということもありますが、それ以外に、アルコール度数が高いと飲み口がスッキリとすることで辛口に感じる場合があります。

⑥香気成分の強さ

お米という穀物を材料にしているにも関わらず、日本酒には、リンゴやバナナを彷彿させる果実のような香りがするものがあり、果物様の甘い香りが強ければ、お酒の味わいへの影響も避けられず、どうしても甘みを強く感じてしまうということは起こり得ます。

⑦相対的なもの

これは、お酒に限らずですが、直前に食べたり、飲んだりしたものによって味覚は大きく影響を受けます。

⑧酒器の違い

うすはりグラスのような、薄いもので飲むとスッキリとした飲み口に感じ、それは味わい自体を辛口に感じる要因になり得ます。

さて、日本酒の甘辛が如何に大きなテーマで難しいものであるかおわかりいただけたでしょうか?

実際、以前、唎酒師の資格保有者や飲食店、酒販店関係者が参加者の多数を占める日本酒セミナーで、とある日本酒を試飲したあと、「これは甘口か辛口か?」を挙手させるという企画があったのですが、その結果は「ほぼ真っ二つ」に別れました(笑)からね。

でも、酒造りの工程を知り、それがお酒の味わい、香りに与える影響を理解し、経験を積んでいけば、ラベル情報などから、少なくとも、そのお酒の「酒質」を予想できるようにはなると思いますし、そうなるのが、このブログの大きな目標の一つです!

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