唎酒師への道(6)ー日本酒の原料 お水編 その②ー

さて、お水編その②です。

その①でも書きましたが、日本の水は世界基準から見れば、その殆どが軟水です。灘の宮水が硬度が高いと言っても、それはあくまでも日本国内においての相対的な話であり、灘の水でも「中硬水」というレベルです。これは地形や地層の違いで水の中にミネラル成分が溶け出し易いか否かにによって決まる部分が大きく、例えば、フランスを始めとするヨーロッパの水の高度は非常に高く、フランス産のミネラル・ウォーターであるエビアンやコントレックスなどは、硬度が高いので有名で、その中でもコントレックスなんて、尋常じゃない硬度ですので、口に含んだ瞬間、違いがわかるほどです。

 

話が逸れていきますが、お酒造り以外のこと、例えば、

料理に使うお水や、緑茶や紅茶を入れるお水には軟水の方が適している

とされています。ミネラル分の多い硬水で肉を煮込むと硬くなってしまいますし、旨味成分が灰汁(アク)となってしまうため、料理には使いづらく、お茶を楽しむ際の重要な要素である「苦味」がミネラルによって取り除かれてしまうということがわかっています。

では、硬水が料理に適さないのであれば、

何故、超硬水を有するフランスが料理大国で有り得るのか?

ということなんですけど、実は、フランス料理って、硬度の高い水を、そのまま料理には使うことは殆どないのです。野菜自体の水分を利用したり、牛乳やワインを多用したり、事前に肉や骨と煮込んでミネラル分を除いたスープストックを用いたりと、水に合わせて様々な工夫をすることで、料理が発達していったわけです。料理の世界でも、その土地の水に合わせた料理法が研究され、発展して行ったわけです。やはり、水って、本当に大切ですよね。

そして、日本における酒造りにおいても、やはり同様に困難な状況を打開すべく様々な工夫・研究がなされてきたわけですが、ついに、軟水でも安全に美味しい日本酒を造る高度な醸造技術である、

「軟水醸造法」

というものが、明治時代の広島の、三浦仙三郎という醸造家によって確立されました。

三浦仙三郎の銅像

広島の水は、やはり軟水の地点が多く、発酵力が弱いことによる脆弱な酒質や腐造に多くの蔵が悩まされ、仙三郎自身も多大な損失を出したりして苦労したようです。しかし、銘醸地として名高い灘へ研修に行き、使っている水の違い、すなわち硬水と軟水の違いに気づき、そこから、血の滲むような努力を重ねて、まだ微生物学が発達していなかった時代に

広島発のバイオテクノロジー

とも言える醸造方法を編み出したのです。同じ広島出身の者として誇らしいです!

その画期的な醸造方法のポイントを専門用語を極力避けて簡単に書きますと、

①健全な麹の育成

②各工程における使用器具まで含めた徹底した衛生管理

③寒暖計を用いた低温での長期に及ぶ厳密な温度管理

というところになるようです。

どれも、当たり前のことじゃない?と思われるかも知れませんが、①に関しては、麹を造る麹室という場所を乾燥した衛生的な場所にするために、その設営場所や構造などについても提言していますし、②に関しても、具体的な殺菌・滅菌方法を細かく、その著書に記しています。更に、③に関しても当時は、まだ杜氏さんによる感覚的なものに依存していた部分が大きかったものを、より厳密に管理するという意味で画期的でした。

そして、仙三郎が素晴らしいのは、

この自分が確立した技術を公開し世に広く伝えた!

ことです。これによって、軟水での醸造に苦労していた多くの酒蔵が救われ、安全に醸造できるようになったことで、新たに酒造りに参入するところも出てきて、日本酒業界の発展に大いに寄与しました。

そして、実はこの、

健全な強い麹を育成して、衛生的環境で低温で長時間かけて醸造する

という軟水醸造法は、まさに、現代における吟醸酒の醸造法に通じるものであり、そういう意味では、軟水醸造法は、現在の日本酒ブームを創った技術の一つであると言えるでしょう。

日本酒の醸造には、本当に様々な工程がありますし、色々な要因が複雑に絡まりあって、その酒質が決まっていくわけですが、その中でも、やはり「水」は本当に大切な要素です。このことは酒造りの工程のところでも書いて行きたいと思っています。

 

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