唎酒師への道(11)ー 吟醸造り ー
さて、今回は「吟醸造り」について書いていきます。
「吟醸造り」について説明する際に、多くの場合、引用されるのが、国税庁のホームページに載っている一節です。当ブログでも、この一節を使って説明していきますが、まず、最初に一番重要なことを書きます。実は、
「吟醸造り」というものに明確な規定は存在せず、吟醸造りであるか否かの判断は造り手である酒蔵の判断に任せられていて、精米歩合60%以下であれば「純米吟醸酒・吟醸酒」を、50%以下であれば「純米大吟醸酒・大吟醸酒」を名乗ることが可能!
なんです!
では、早速、その国税庁のホームページの「吟醸造りとは?」という一節を見てみましょう。それは以下の通りです。
お分りいただけますよね?
正に、吟醸造りを名乗るための明確な条件や規約が書いてあるわけではなく、ザックリとした定義のようなものがあるだけです。
ここから、わかることは二つ、
・「吟醸」の語源は、①「吟味して醸造する」からきていること
・吟醸造りというのは、原料処理から出荷に至るまで酒造りの全ての工程において、こだわりを持って造る非常に高度な醸造技術であること
です。
これから、このブログでは、酒造りの個々の工程を詳しく説明して行くわけですが、実は、まだ、その一番最初の工程である「精米」までしか説明できてなくて、その「精米」から派生する形で、「特定名称酒」、「アルコール添加」、そして、今回の「吟醸造り」の説明という流れになっております。
ですから、この吟醸造りの回では、個々の工程に詳しい説明はしないで、上記、国税庁HPからの引用文に振った番号順に簡単な解説をする形式を採りたいと思います。
まず、②「よりよく精米した白米」は簡単ですよね。精米歩合60%以下、50%以下という規定のことを指しています。「お米編 その①」で説明しましたように、お米の粒の外側にはタンパク質や脂質といったお酒の雑味の原因になる成分が多く含まれていることから、その部分を削った方がエレガントなお酒ができるというわけです。
③「低温でゆっくり発酵」につきましては、「お水編 その②」で書きました軟水醸造法に通じるもので、一般のお酒が8〜15℃の温度で発酵させるのに対して、吟醸造りの場合は、5〜10 ℃という低温でじっくりと長期間かけて発酵させます。低温で発酵させることによって、
・酵母が香気成分をつくる作用が促進される
・低温であるために、香気成分が揮発しにくく液体に残りやすい
・過剰に味わいの成分が出ることがない
といった効果があり、リンゴやバナナのようなフルーティーな⑤「特有な芳香(吟香)を有する」お酒ができるわけです。
しかし、低温の下では、糖化酵素も酵母も活発には活動できないので、
・酵素の働きが緩やかで糖化スピードも緩やか(米が溶けにくい)➡︎④「(酒)かすの割合が高い」
・酵母の働きも弱いので発酵が止まってしまうリスクと隣り合わせ
ということになり、もともと精米歩合が低く、多くの部分を削っているのに加え、
酒粕の割合が多いということは出荷できるお酒の量が減るということ
ですから、原料のコストは更に割高となり、更に、「糖化」と「アルコール発酵」のバランスに細心の注意を払いながら、極めて厳格な温度管理などのテクニックを駆使しなければ良い酒ができないわけですから、その労力たるや大変なものですよね。
⑥「吟醸造り専用の優良酵母」については、最近は、非常に強い吟醸香を出し、発酵が一気に進んでも味わいが大味にならないような優秀な酵母も開発されて、それを使う蔵も増えてきているようですが、それでも、発酵の管理は一般のお酒に比べれば極めて厳密に行われますし、酒蔵訪問の投稿でも書いていますが、⑦原料米の処理、発酵の管理からびん詰め・出荷に関しても、吟醸造りに際しては、普通酒と異なる手法を導入している工程が多く、ざっと列挙しても、
・そもそも心白の大きい酒造好適米を原材料に使うことが殆ど(麹米だけでなく掛米にも)
・お米は機械を使わないで人の手で洗う
・お米を水につけて吸水させる時はストップウォッチで秒単位で時間を測る
・お米は昔から使っている蒸し器(甑)で蒸すことも多い
・蒸しあがった米はエアシューターで飛ばさないで人が担いで運ぶ
・麹造りの際の手間も全然違う(麹菌のふり方、麹菌の育て方、温度管理の頻度etc)
・搾り方も機械を使うにしても圧力を弱めにする、また機械を使わないこともある
・火入れという低温殺菌も香りを逃がさないため「瓶燗火入れ」という方法を行うことが多い
・出荷までも酒質を損なわないために低温貯蔵する
という感じで、枚挙に遑がなく、今、ここで例を挙げても理解していただけないような多くの工程に関しても、ことごとく、こだわりを持って、多大な労力をかけて、まさに
「特別に吟味して醸造」
しているわけです。
そりゃ、美味しいお酒ができるわけです。
そして、原料コスト、人的コスト、両方が余計にかかっているわけですから、お値段も高めにはなるのは当然ですよね。
最後に、「吟醸造り」のお酒について、いつもの味わいと香りの傾向の図を入れときます。
これで、「精米歩合」の説明からの流れで書いた「特定名称酒」、そして、その「特定名称酒」の区分けに用いられていた用語である「アルコール添加」と「吟醸造り」についての説明も終わりましたので、次回は、8種類の特定名称酒のザックリとした味わいと香りの傾向を説明し、最後は大胆に図に示してみたいと思いますので、お楽しみに!
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