唎酒師への道(5)ー日本酒の原料 お水編 その①ー
さて、日本酒の原料シリーズ、今回は「水」です。
日本酒の成分の実に80%は水です。ですから、昔から、
「名水あるところに銘酒あり!」
と言われてきて、現代においても、日本における日本酒の二大生産地である、兵庫県の灘や京都府の伏見には、それぞれ「宮水」、「御香水」という良質な水があったことも、早くからお酒造りが盛んになった一つの要因です。
それでは、どんな水が日本酒造りに適しているのか?ということですが、下の図を見てください。
当たり前ですが、
「有効成分を多く含み、有害成分が少ない水」
が日本酒造りに適している水ということになりますよね。このうち、「有害成分」に関しては、水道水より、更に厳しい基準が設定されておりまして、水道水に比べて、鉄分については、15分の1、マンガンに関しても、2.5分の1の含有しか認められていません。こうした有害成分に関しては、もともと数値の低い水を仕込み水として用いている蔵が多いのですが、毎年、水質検査を行い、数値が悪い場合には濾過するなどの処理を行っているようです。
さて、次に有効成分の話に移ります。この有効成分として挙げられている「カリウム」、「マグネシウム」、「リン酸」という名前を見て、ピンと来た!方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そうです!これらの成分は、「ミネラル」と呼ばれているものです。そして、正に、
水はこのミネラル成分の量によって「硬水」と「軟水」に分けられる
わけです。
では、これらのミネラル分が、どういう点で酒造りにおいて有効なのか?ということですが、
このミネラル分が、お酒を造りに必要な微生物である酵母・麹菌の栄養分となる
ということなんです。カリウムやリン酸などは植物の重要な栄養源でもありますからイメージしやすいと思います。ここで「独自の発酵形態」の投稿で紹介した図を思い出してください!
日本酒は、麹菌による糖化と酵母によるアルコール発酵が同時並行的に起こることによって造られるわけですが、ミネラル分が豊富な水、すなわち硬度の高い水で仕込まれると、麹菌と酵母が、そのミネラルを栄養分として、元気よく活発に活動できることから、短期間で発酵が進みやすくなり、その結果、酒造りに失敗するリスクも減ります。一方で、養分であるミネラルが少ないと、同じ作り方をしても、麹菌や酵母の活性が乏しいので、発酵力が弱く、遅々として発酵が進まない、最悪の場合、発酵が止まって雑菌などの繁殖によって腐ってしまう(これを腐造と言います)リスクが高まります。
もうお判りでしょうか?要するに、ここでいう、お酒造りに適しているかどうか?の基準は、
「安全にお酒を造れるかどうか?」
ということなんです。実際、現代のように「高度な醸造技術」が確立される前は、軟水を使わざるを得ない蔵にとって、仕込んだお酒が腐ってしまう、「腐造のリスク」というのは非常に現実的なものでしたし、お酒の味わいが水っぽいなどと酷評されたりしていました。このようなリスクが少ない形で、古くから日本酒を造ることができた灘が酒処として発展していったのには、こうした理由もあるんです。
では、殆どの水が「軟水」である日本において、日本酒造りの救世主となった「高度な醸造技術」とはいったいどういうものなのか?
それは、その②で書きます!
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