日本酒の都市伝説 その① ー日本酒は悪酔いするー
私自身、かつて日本酒を敬遠していた時期がありました。その一番の原因は日本酒を飲み過ぎた後の、苦しい二日酔いという苦い記憶だったのです。そして、今でもアンケートを取ってみると、日本酒を敬遠する理由の断トツの1位が
「日本酒は悪酔いする、二日酔いが酷い」
というものです。何故、そうなってしまうのでしょうか? いや、そもそも、この伝説は真実なのでしょうか?
結論から言って、日本酒だけが悪酔いする、二日酔いが酷いなどということは決してありません。ここでは、日本酒の特性、市販されている日本酒の種類などにも触れながら、この都市伝説を検証してみたいと思います。
①日本酒はアルコール度数が高いお酒と認識して飲んでいるか?
焼酎やウィスキーは蒸留酒というカテゴリーに入りまして、こちらはアルコール度数が非常に高いお酒として認識されていますので、水やお湯などで割って薄めて飲むことが多いですし、ロックで飲むとしても、ストレートで飲むにしても、チビチビとゆっくり時間をかけて飲むという飲み方が定着しています。
一方で、日本酒はワインやビールと同じ醸造酒というカテゴリーに入ります。そして、一般的なビールのアルコール度数が5%程度、ワインのアルコール度数が12〜13%程度であるのに対して、日本酒の場合は15〜16%のアルコール度と高めであり、「原酒」となると18〜20%のものもあります。ビールとのアルコール度数の違いは明白で、そもそも飲まれ方も違うので比較する必要もありませんが、ワインと比較した場合、この数%のアルコール度の違いが同じ量を飲んでもボディーブローのように効いてくることは容易に想像できます。
また、ワインの場合、例えば、二人で750mlのボトル1本を飲むといったスタイルが定着していますが、日本酒の場合、720mlの四合瓶をオーダーするケースは少なく、次々と異なる種類の日本酒をオーダーしていって、結果的に、飲み過ぎてしまうことも多くあると思います。飲みやすい冷酒の場合などは、特に、このパターンに陥りやすく、大量の日本酒を、しかも早いスピードで飲んでしまうことにより、翌日、深く反省したという経験をお持ちの方も多いことでしょう。「冷酒は危険」という経験則を良く聞くのも、この辺りに原因があるんですね。
②日本酒というカテゴリーにも色々な種類のものがある
昨今は日本酒ブームと言われていますが、実は、日本酒全体の消費量は増えているわけではなく、増えているのはいわゆる「特定名称酒」というものです。特定名称酒については、詳しくは別途説明するとして、ここでは、そこに属する名称だけを紹介しますと、
<純米系グループ>「純米大吟醸酒」「純米吟醸酒」「特別純米酒」「純米酒」
<醸造用アルコール添加グループ>「大吟醸酒」「吟醸酒」「特別本醸造酒」「本醸造酒」
の2グループ、8つの区分けが存在します。特定名称酒に分類されるには、様々な規定を満たしている必要があり、英訳すると「Premium Sake」となります。そして、実は、この特定名称酒と呼ばれるものは日本酒全体の約3割ほどを占めているに過ぎません。
残りの7割は、普通酒(レギュラー酒)というカテゴリーに分類されます。そして、ここには、添加する醸造アルコールを全体のアルコール量の約25%以下に抑えるという規定を満たさないもの、甘味料や酸味料やアミノ酸などを添加したものなどが含まれるのです。手頃な価格でお酒を飲みたいというニーズに応えるために、規定以上の醸造アルコールを添加して量を増やし、それによる味わいの低下を添加物によって補う形で「工場」で大量生産されたお酒が未だに圧倒的なシェアを維持しているのが現状です。
さて、ここで醸造アルコールって何?と思われる方もいらっしゃると思いますが、これを説明するだけで一つの大きなテーマになってしまうので、ここでは簡潔に説明しますと、砂糖を精製する時に生じる廃蜜糖と呼ばれるものを工業的に蒸留してできる極めて純度の高いエチルアルコールのことです。梅酒など、果実酒をつくる時に用いるホワイトリカー(甲類焼酎)と同じもので無味無臭です。
では、醸造アルコールが悪酔いの直接の原因になるのか?というと、明確な科学的根拠はありません。味を整えるための添加物についても同様です。
しかしながら、2000年以上の歴史を持つ國酒である日本酒を楽しむのであれば、やはり、大量にアルコールが添加されたものや、添加物を加えたものより、伝統的な造りを継承して、人間が手間暇かけて醸している特定名称酒の方が体に優しいはずですし、何より美味しいですから、こちらを選ぶことをお勧めします。
あと、日本酒ではないのですが、「合成清酒」という紛らわしいものが存在しておりまして、日本酒売り場に置かれている場合があります。これは、もはや、お米から醸造したお酒の成分は殆どなく、ほぼ工業的に造られたものですから、これも避けるべきでしょう。
③飲み方・楽しみ方
繰り返しになりますが、日本酒が他のお酒に比べて、悪い酔いしやすいとか、二日酔いになりやすいという事実はありません。ですから、醸造酒の中では、アルコール度数が若干高いということを認識した上で、美味しい肴との相性も楽しみながら、自分の適量を考えてじっくり呑みましょう。
最近は、ワインを意識してか、アルコール度が12%ほどといった低アルコールの日本酒も造られており、原酒でも15%といったものも出てきていますから、そういったものを選択するのも良いでしょう。
あと、日本酒と同量以上のお水を一緒に飲むのも大切です。いわゆる「チェイサー」ですが、日本酒を飲む時の水は「和らぎ水」と呼びます。風情がありますよね。気の利いたお店ですと、酒蔵から実際のお酒造りに使っている「仕込み水」を取り寄せていて、それを出してくれるところもあり、仕込み水と、その仕込み水で造られた日本酒を両方味わうこともできたりもします。
やっぱり日本酒って深いですよね。
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