唎酒師への道(3) ー日本酒の原料 お米編 その①ー

日本酒について知るためには、その製造方法の前に、まず原料について知る必要があります。そして、今回は、その第一弾、「お米編」です。

①酒造好適米とは?

私たちが普段食べている、コシヒカリ、ササニシキといったお米は食用米(一般米)と呼ばれています。一方で、日本酒造りに適しているお米として、農林水産省が認定しているものが「酒造好適米」と呼ばれるもので、各都道府県単位でも新種の開発が盛んに行われており、現在、全国で100種類以上の酒造好適米が存在します。

その特徴は以下の通りです。

(1)粒自体が食用米に比べて大きい

普段、我々が食べている白米は、玄米の外側の部分を10%程度削って(精米して)いるものです。 これに対して、日本酒を造る際には、殆どの場合、20%以上、場合によっては70%以上も削ったお米を使います。因みに、「削って残った部分の割合」のことを精米歩合と呼びます。例えば70%削ったお米の精米歩合は30%となります。(精米歩合については詳しくは、工程の説明の際に触れます。)そして、酒造好適米は、食用米より粒が大きいため、削りやすい、削っても割れにくいという点で優れているのです。そして、

そもそも何故そんなにお米を削る必要があるのか?

ということなのですが、お米にはデンプン質の他に、タンパク質や脂質などの栄養素も含まれており、これらは日本酒造りにおいて雑味(旨味でもあるのですが・・・)の元になり、かつ、これらの栄養素は、お米の外側の部分に多く存在するのです。従いまして、特に吟醸酒系などの雑味のない綺麗なお酒を造る場合、より多く外側の部分を削る(=精米歩合が低くなる)ことになるわけです。

(2)心白(シンパク)の存在

酒造好適米には、中心部分に「心白」と呼ばれる白い部分が存在します。主にデンプン質でできているこの部分には、実は非常に微細な隙間が存在しており、そこに光が反射することで白く濁っているように見えるのです。そして、

何故、心白の存在が重要なのか?

ということですが、前回の発酵形態の投稿でも触れましたが、麹菌を米に繁殖させる製麹(セイギク)という工程において、米の中心部に、微細な隙間を持つ(=柔らかい)心白が存在すると、麹菌が米の中心部に向かって、その根を延ばして繁殖しやすく、酵素を多く生成する糖化力の強い良質な米麹ができる可能性が高まるからなのです。

(3)タンパク質や脂質が食用米に比べて少ない

酒造好適米は、そもそも、精米する前の段階で、食用米に比べて、雑味の原因になるとされるタンパク質や脂質、ビタミンなどの栄養素が少なくなっていますので、日本酒造りに適していると言えます。

(4)高度な栽培技術が必要

酒造好適米は、食用米よりも背丈が高く、品種によっては150〜160cm以上にも達するものがあります。そして、一粒一粒が大きいということは穂が重いので、台風などの強風で倒伏しやすく、また日当たりや風通しを良くしてやるために、株どうしの間隔を広く開けてやらないといけない。しかも害虫や病気の対策もこまめに行う必要があるなど、栽培に極めて手間のかかるものが多いのです。漫画「夏子の酒」でも、幻の酒造好適米「龍錦」を栽培するのに大変な苦労をする農家の姿が描かれていましたよね・・・。そして、更に、収穫量も食用米に比べて少ないものが多いので、当然の結果として、

お値段も高い!

ということになります。

こうしたコストの問題もあり、一口に日本酒の原料としてのお米と言っても、その全てに酒造好適米が使われているのではなく、

米麹を造るためのお米(麹米)にのみ、酒造好適米を使う

というケースが圧倒的に多いのです。

また、精米技術の発達によって、粒の大きくない食用米でも割ることなく、多くの部分を削れる(精米歩合の数字が小さい)ようになりましたし、醸造技術の進歩によって食用米でも個性的で美味しい日本酒を造る酒蔵も出てきています。

その②に続きます。

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