唎酒師への道(2) ー独自の発酵形態と麹の役割 その②ー

さて、前回は、原料である穀物にアルコール発酵に必要な糖分が存在しないビールや日本酒の場合、酵素の力を借りて、「デンプンの糖化」というSTEPが必要になること、そして、ビールの場合、この酵素を原料である麦芽から自前で調達できるのに対して、日本酒の場合は、「麹菌」の力を借りなければならないというところまで説明しました。

そして、今回は、いよいよ日本酒独自の発酵形態について書きます。実は、アルコール発酵のために同じ「デンプンの糖化」というSTEPが必要でも、ビールと日本酒には発酵形態に決定的な違いがあります。

まずビールの場合は、

という形で、まず第一段階として、大麦の麦芽が生み出す酵素の力で「糖化のプロセス」を行い、その後、煮沸して酵素の働きを止め、「糖化のプロセス」を完了した後で、酵母を加えて、第二段階の「アルコール発酵」へと移行します。つまり、この二つのプロセスが順を追って別々に行われるわけですね。そして、「糖化」自体も発酵の一種ですので、この複数の発酵が一つの流れの中で別々に行われる、ビールの発酵形態を「単行複発酵」と呼びます。因みに、ワインの場合は、「糖化」のプロセスがありませんので、「単発酵」と呼ばれます。

さて、そして本題の日本酒です。まずは、下の図を見てください。

おわかりになりましたでしょうか?そうです!日本酒の場合は、「糖化」と「アルコール発酵」という二つの異なる発酵プロセスを、同時並行的に同じタンクの中で行うことによって造られるのです。原料である蒸米に対して、米麹から供給される酵素が作用して「ブドウ糖」が生成され、その「ブドウ糖」を利用して酵母がアルコールに変換していくプロセスが同時並行的に行われる、この発酵形態こそが、日本酒独自のものであり、

「並行複発酵」

と呼ばれるものです。

そして、この「並行複発酵」は世界に類を見ない極めて高度かつ繊細な技術が必要な発酵プロセスであり、日本酒の香りや味わいの違いを決定づけるプロセスでもあります。

この「並行複発酵」には、何故、高度な技術が必要なのか?、考えてみましょう。まず、ワインの場合は最初からブドウ自体の持っている糖分が決まっています。次に、ビールの場合も糖化のプロセスを終えた後ですから、生成された糖分は決まっているわけですね。要するに、両者共に、その「決まった糖分量」に対して酵母が作用してアルコール発酵が行われるわけです。

しかし、日本酒の場合は、糖化とアルコール発酵という、二つの発酵プロセスがバランス良く進むよう、すなわち、

物質である酵素と微生物である酵母の活動を人間がコントロールしてやる必要

があるわけです。

詳しくは、また別途説明しますが、

・酵母は「生き物」であり、酵素は「物質」ですので、それぞれが活発に活動できる温度帯が異なる

・タンクの中の糖度やアルコール度によっても、酵母の活動が影響を受ける

・蒸米の状態や、米麹の出来による酵素生成能力によって糖化速度も違う

といったことなどを踏まえて、毎日、タンクの中の醪の状態を機器で分析し、かつ味や香りを元に経験豊かな杜氏さんが自分の感覚も判断に加えながら、極めて微妙な「温度管理」や、「加水」によるアルコール度数調整などを通じて、酵素と酵母の活性をコントロールしていくという大変手間のかかる作業が存在するわけです。タンクに投入すれば「終わり」ではなく、まさに、そこからが大変なわけです。

そして、このバランスが崩れると、最悪の場合、発酵が止まって腐ってしまうリスクもありますし、完成した時の、お酒の味わいや香りが全く違ってくるのです。今回は、二つの発酵プロセスのバランスに焦点を置いて書きましたが、そのバランスに影響を与える要因が、これまた多く存在しますので、思い描いた味わい、香りを持つお酒を造るのは容易なことではありません。

こうした気の遠くなるような繊細な作業を経て、醸される日本酒、心して飲まないといけませんね!

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